授業科目名 配当年次 開講期間 所要単位 必修・選択 担当者名
東邦学園と中部圏 1 前期 2 選択 榊 直樹


【授業の目的と概要】

 副題は「真面目学」。東邦学園の歩みと建学の精神並びに校訓を、歴史と共に理解してほしい。学園創設者は東海地域の産業基盤を築いた一人だ。創始から間もなく全国に名を馳せた学園は戦時期、勤労動員生徒らが犠牲となった。戦後は復興から高度成長・ベビーブームに乗って、発展を続けた。東西冷戦下の保革対立、学園紛争、高度成長がもたらした公害も起きた。半世紀の成長至上主義は「失われた20年」を経て、今は少子化、人口減少への対応を迫られている。

 この学園が誇りとする教育の方針は「建学の精神」と「校訓」に基づく。1世紀前に掲げられた方針を、現代社会に照らすとどう受け止められるか、考える場としたい。

【授業の方法】

 前週に予告し、資料も配布したテーマについて、歴史を学ぶように、時系列的に説明し、授業を進める。題材に応じては、旧い時代の映像も鑑賞する。

 その上で、ディベート的に学生の感想や意見を聞き出し、考えてもらう。

 レポートは、答えや正解を求めるのではなく、自分ならばどう考えるかを問う。

 時事問題への関心を引き出したいので、新聞記事を使った時事解説も取り込む。

【各回のテーマ】

第1回 講義の目的と学園創設者・下出民義の足取り

第2回 明治から戦前までの学制の変遷と私学の創立

第3回 学園創設に込められた「建学の精神」の意味

第4回 満州事変から戦時中までの教育と東邦商業

第5回 焼野原からの復興。「民主化」に基づく教育

第6回 ベビーブームと進学者激増、東邦短大の発足

第7回 冷戦時代と60年・70年安保、学園闘争

第8回 高度成長の光と影。辿り着いた失われた20年

第9回 企業の行動規範と社会的責任

第10回 商売訓・ことわざから考える「真面目」

第11回 超長寿企業を支える「信頼」と「真面目」

第12回 スポーツの世界に「真面目」は有り得るか

第13回 先人から学ぶ「真面目」とは

第14回 非営利事業、非営利団体の理念とは

第15回 まとめ

【各回の内容】

第1回 下出民義は幕末の泉州生まれ。15歳で小学校の教壇に立ち、石炭売買から実業人の歩みを始めた。名古屋に拠を移して福沢桃介と出会い、電力開発、鉄道網整備、製鋼所設立、企業買収と事業を拡大し、政界とも関わった。

第2回 藩校の時代から明治に入り、教育制度はどう変わったか。新たに私立学校を創設した人々の思いや時代の雰囲気には何があったのか。近代国家に向けて富国強兵下、教育制度が担った「使命」とは。

第3回 東邦学園の創始・東邦商業学校は、建学の精神をなぜ「真に信頼して事を任せうる人格の育成」と掲げたのか。そこに込めた下出父子の願いと開学に至る経緯は。

第4回 創立8年後の1931年に満州事変が勃発。東邦商業は野球部が春の甲子園で3度優勝する一方、戦地へ向う生徒と教員も相次ぐ。勤労動員先が空襲され教員と生徒に犠牲者も出た。15年に及んだ戦火は無条件降伏で止む。

第5回 占領下で責任追及が行われ、学園初代理事長は戦争協力者として公職追放。教科書は黒塗り、かつての思想や制度は、「民主化」の名の下、教育も内容・制度が変わり、第二代理事長は公選制で愛知県教育委員に選ばれた。

第6回 戦地、勤労動員先、疎開地から人が戻りベビーブームが起きる。1950年代後半から児童が一挙に増え、高校進学、さらに大学進学者の増となる。東邦学園短大が1965年に発足、学園は新たな歩みを始めた。

第7回 冷戦期、米国とソ連は核兵器を背景に、世界の覇権を競った。日本では日米安保条約改定をめぐり国論が激化、デモ学生に死者も。ベトナム戦争、日米安保、沖縄返還から学園自治まで、日本中の大学が荒れた。

第8回 高度成長時代、賃上げ2万円越えの一方、公害も広がった。経済成長最優先の意識と仕組みは、最後にバブルに踊り狂い、日本を破綻と長い低迷へ突き落とした。就職も超氷河期が続いた。「失われた20年」を振り返る。

第9回 失われた20年で問われたのは企業の行動規範と社会的責任。業績の粉飾や産地、品質、強度などの偽装、リコール隠しが相次いで明るみでた。「信頼」と「真面目」の精神から見た企業の在り方とは。

第10回 ICT化、人工知能がいくら進化し、ビジネスが巨大化しても、商売の根底を支える精神は不変なのではないか。人間同士の「信頼」である。長く受け継がれた「商訓」「ことわざ」から、現代のビジネスを考える。

第11回 日本には創業200年以上の企業が3000社、100年以上は1万9500社にのぼる。ドイツ1500社、フランス300社である。超長寿企業が抜きん出て多い秘訣は何か。社訓・家訓に目立つ「信」と「真」から考える。

第12回 スポーツが勝ち負けを競うとき、「フェアプレイ」にどれほどの価値があるのか。国威発揚、高収入のため、薬物の力を借りてなぜ悪いのか。他方で高校野球の勝負を度外視した直向きなプレーに、なぜ拍手するのか。

第13回 ノーベル受賞の大村智博士は、夜間定時制高校教員の時、働きながら学ぶ生徒の真摯な姿に心打たれ、「人のためになろう」の一念で発起、アフリカの2億人を失明から救った。人の道から真面目の価値を追究してみよう。

第14回 民間企業のような利益を求めず、しかし役所のような税金に頼ることもしない自立性がある――社会貢献を第一に掲げる非営利団体やNGOの活動ぶりから、働く意味と真面目を考える。

第15回 世代の半数が大学へ進む今、大学生自身の意識と社会が見る目も変わった。「信頼」と「真面目」を通じて大学における学びの姿を、おさらいしながら考えたい。

【事前・事後学習】

 次回のテーマにまつわる資料を前週に配布し、予め読んで予習への関心と姿勢を引き出す。毎回示す歴史上のキーワードについて復習を求める。

【課題に対するフィードバックの方法】

毎回、講義を踏まえて、その場で提出を義務付けるレポートに関して、翌週、個々にコメントを付して返却し、受講者を励まし、称える。と共に、物事を一層多面的、多角的に捉えて、深く考える姿勢を促す。

【授業の到達目標】

学園が歩んだ1世紀にのぼる歴史を理解し、現代を見つめ直せること

命も投げうった時代に思いをはせ、平和な現代に生きる意味を噛みしめられること

他人、社会のために貢献する意味を考えられること

校訓「真面目」と建学の精神を現代的に理解できること

【評価割合 - 筆記試験《%》】
55
【評価割合 - 実技試験《%》】
【評価割合 - レポート《%》】
30
【評価割合 - 平常評価(授業への参加・貢献度)《%》】
15
【その他(授業内課題等)《具体的内容》】

【評価割合 - その他(授業内課題等)《%》】
【テキスト】

なし(プリントを適宜配布)

【参考図書】

「もういちど読む 山川日本史」(山川出版)

池井戸潤「空飛ぶタイヤ」